診察へ

 私は最初に美容クリニックで診察してもらうことにした。
ネット予約ができて比較的病院味が少なく、なんとなく行きやすく感じたからだ。

 そのクリニックは東京、上野駅にあった。以下、頭文字をとってNクリニックと呼ぶ。
亀頭直下を採用していることが多い美容クリニックの中でも、サイトを見る限り環状切開の選択肢も残していたということがキーとなり、Nクリニックを候補として残したのだった。また費用も10万円以下と比較的リーズナブルだったことも、貯金の乏しい私には一見の価値ありと思わせた要因だ。

 貯金が少ないのに保険のきかない包茎手術、、、
自分でも倒錯していると感じるのだが、何かをするときに金がないからと理由を付けて後回しにすると終ぞ何もできないのが定番だ。節約のために何もせずただ不自由するのと、自分が選んだ道の先にある不自由を耐えるほうがまだ実りある時間を過ごせていると感じるはずだ。

 平日昼間の山手線の座席に座りながらぐるぐるとそんなことを考えていると上野駅に着いた。上野公園側の出口しかわからなかったのでそこから出るが、Nクリニックは駅を挟んで反対側にあった。

 公園沿いの坂道を下り、アメ横の手前の交差点をアメ横に入らずにL字にターンし反対側へ向かう。途中、駅の高架下のラーメン屋に入ったのだが、実は2か月ほど前の記憶を思い出しながらこの記事を書いているので、”美味かったような気がする”という書かない方がマシな貧弱なレビューをここに綴っておきたい。このレビューを見てもし、もしも、食欲がそそられたという変わった方がいたら、是非行ってみて欲しい。そしてどんな味だったかを教えてほしい。

 上野駅はほとんど公園側かアメ横方面でしか遊びに来たことがなかったため、入り組んだ歩道橋の上をナビを見ながら進んだ。

 歩道橋の階段を降り、一本道を駅を進んでいると、右手のビルの一階にNクリニックがあった。
ドアを開けるのに、通行人の目が気になって少しだけ躊躇したが、一体どれだけの人がこのクリニックが何クリニックなのか理解していたのだろうか。一度通り過ぎてから覚悟を決めてドアを開けると、よく空調の効いた涼しい空気と受付があった。

初対戦へ

「13時から予約のゆいちです・・・」
受付「かしこまりました。本日身分証はお持ちですか?」

 そんな事務的なやり取りをし、ソファーに座って問診票を書くよう指示を受けた。
これが、包茎界隈従事者と初めて生身でコンタクトを取った瞬間だった。ここから私の運命が動き出したわけだ。

 ひびの入りまくったソファーも含め待合室は誰かの実家のような、そこの住居者以外はなんとなく落ち着くことができない謎の生活感があり、私は問診票を手早く書き上げて受付に渡した。

 そういえばとふと思ったが、私以外の患者が一人もいない。クリニックに着く前にほかの患者が出ていった様子もなく、がら空きだ。平日ということもあるが、上野というまあまあな賑わいを誇る街でこんなにひっそりと待ち合うことになるとは思わなかった。

 そうこうしているうちに名前を呼ばれ、緊張の面持ちで診察室に向かった。
中に通されると、一つの部屋が薄いカーテンでいくつかの部屋に仕切られているような空間だった。その中の一室にカーテンをめくって入室すると、外科医が手術の時に着用する緑色の上下を着た推定50代の男性医師が座っていた。

医者「どうぞおかけください」
「失礼します」

医師が軽く自己紹介を済ませ、本題に入る。

医師「仮性包茎ということですが、実際は日本人男性の多くがこの状態で・・・」

仮性包茎に関して説明が始まる。このあたりの情報はここにたどり着くまでにしこたま調べて知っているが、相槌を打ちながら真剣に聞き入った。
医師が仮性包茎手術の必要性の低さに触れてから問いかける。

医師「ということなんですが、どうして手術をお考えなんですか?」
「行為中ゴムが着けづらかったり、少しずつ外れていくのが嫌で・・・」
嘘ではないのだが、遅漏の改善が肝であることはなんだか恥ずかしかったので言わなかった。
医師はなるほど、とうなずいたため、納得は得られたと思い少し安心する。

医師「ではベッドに横になってパンツを下げておいてください」
そう言って医師は部屋から一時退出した。
いよいよ医師による触診が始まる。一人になった私は言うとおりにベッドに仰向けでちんちんを出した。

「では触診始めますねー」
そう言って先ほどの医師と院長の二人が私の股間を包囲した。
男たちは露わになった私のちんちんに手を伸ばしてこねくり回す。嗚呼。

 無事触診は終わり、ズボンをはいた私は再び何もなかったかのように椅子に座り、医師と向き合っていた。院長はいなくなっており、彼は執刀と陰茎を触診するときだけ現れる存在のようだ。

医師「手術は問題なくできそうです」
「そうですか、ちなみに私は亀頭直下ではなくて、性感帯の内板を残したいので環状切開希望なのですができますか?」

そう言うと医師の反応は鈍った。

医師「当院では環状切開はおすすめしていません。なぜかというと、環状切開によって陰茎が腫れてしまい、裁判になった事例があるんですよ。ですので当院では環状切開はいたしておりません。」

医師は続けた。

医師「それに性感帯がなくなるということはありません。素人なりにいろいろ調べてきているようですが、手術するのはこちらです。プロとしてやっている訳ですから、信頼していただいて大丈夫です。」

 私の中でこの瞬間、この医師に対する信頼がなくなってしまった。

 そもそもなぜ施術しない環状切開の金額を客に提示しているのか。
そして、確かに陰茎の腫れで裁判になった事例はあるのだろうが、その他に感度が低下したという事例も少し調べればたくさん出てくることはわかっている。何を根拠に性感帯はなくならないと断言しているのだろうか。
 内板が性感帯なのであれば、それを除去すれば感度が落ちるのではないかというのは当然の疑問だろうに、指摘を受けた後にムキになって反論してくるところも、怪しむに値する。
 全ての所作が、患者を丸め込んで亀頭直下手術を受けさせるためのもののように思えた。

 私はその後、医師に礼を言って待合室に戻り、会計を済ませてクリニックを出た。ものの2,30分の診察だったので、外は先ほどと変わらず晴天だった。

 今回の診察で私は医院の候補を残りの持ち玉の二つに絞ることができた。やはり実際に話してみないとわからないことが多い。
 美容クリニックの商売っ気の強さを感じた私は、次に予定を入れている泌尿器科の診察日程を確認しながら駅に戻っていった。

 ようやく包茎手術への第一歩を踏み出した。

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